第2回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告
教育問題研究会 市川洋・今宮則子
1.はじめに
教育問題研究会は、今後のプレゼンテーション・授業・アウトリーチ活動に有用な情報を会員、特に大学
院学生と若手の研究者・大学教員に提供することを目指して、2013年度春季大会時に、「海の自然史
研究所」が全国各地で行なっているCOSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座、全10回)の一部を体
験する「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」を開催した。これに引き続き、
第2回体験ワークショップを2013年度秋季大会最終日である9月21日の13時30分から17時に北海道
大学環境科学院D102教室で開催した。7月下旬の海洋学会MLでの開催案内に応じて事前登録した
会員は4名と少数に止まったが、結局、8名(内6名は教育問題研究会会員、若手会員は2名)が参加し
た。以下に、本ワークショップの概要を報告する。
2.概要
ワークショップは、市川洋(海洋研究開発機構)による開会挨拶・趣旨説明、藤田喜久(海の自然史研究所)
による「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)の概要」の紹介の後、都築章子(海の自然史研究所)
が講師となって約2時間にわたって『「会話と質問、探究を促すディスカッション」について考える』という主題の下
で進められた。都築が演じる水族館のガイドスタッフと藤田と今宮が演じる来館者との会話を例として、専門的
な知識を伝えようとする目的を支え達成するために利用する各種の会話方法について学んだ。さらに、教育者が
自分の役割をどのようにとらえるかによって、学習者に与える影響がどう変わるかを、2つの小グループに分かれて、
資料を基に議論し、その結果を参加者全体で共有した。
これらの実施内容についての参加者の感想を以下に示す。
1)一般参加会員
活気ある海洋教育を目指して
紋別市は、北海道のオホーツク海沿岸の街で、冬になると海には流氷が押し寄せ、一面真白になります。流氷が去り、
春になると沿岸漁業や沖合底引き網漁業で浜は活気づきます。漁業および水産業は市の重要な基幹産業ですが、
地元の子供たちが海の様々な生き物と実際に触れ合う機会は意外に少ないです。そこで、官民が協力して小・中・
高校生を対象とした「地引網体験学習」を5年前から実施し、ふるさとの海と自然環境について身近な海洋生物を
通して学ぶ機会を提供しています(毎年300~500人が参加)。この体験学習は、地元学校の「総合的学習」や
「理科」の授業などに採用されています。海の生きものを実際に「見て、触れて、楽しみながら学ぶ」ことは、理科離れ
が懸念されている現在、学習導入コンテンツとしてとても重要だと思います。
今回、「海のサイエンスカフェ」と「COSIA(海洋科学コミュニケーション講座)体験ワークショップ」に初めて参加し、
新たな視点からの教育アプローチを知ることができました。相手に一方的に伝えるだけでは十分ではありません。学ぶ
者の興味をいかに引出し、能動的に学ぶ場を作り出すことが大切です。そのためのコミュニケーションスキルについて、グ
ループ学習、実践を通して、体系的に学ぶ機会が持てました。今後、インフォーマルな教育(学校以外の教育)において、
さらに満足度を高めた学習コンテンツを提供していきたいと思います。
(片倉靖次、紋別市役所)
2)教育問題研究会会員
科学と教育を互いに結びつけるCOSIA講座を初めて体験して
普段は教育学者のスタッフと協力して海洋教育のカリキュラム開発や全国の海洋教育実践組織・機関とのネットワーク作りを
進めています。今回ワークショップに参加したのは、出前授業を行う機会が多く授業の質向上に役に立つと思ったこと、COSIAの
開発母体であるアメリカのCOSEE(海洋科学教育センター)の活動に興味があったからです。この実践講座では「質問後に三秒
以上の待ち時間を作る」「生徒に正しい優秀だなどとは言ってはいけない」といった具合に、していいこと、してはならないこと、を明
確に指示していることが特に印象に残りました。初めはこれらの指示がわざとらしく感じましたが、すべて教育実践研究に基づいたも
のであり科学者には非常に有用なものだと思いました。今までの出前授業やカリキュラム開発では生徒にいかに分かりやすく専門
知識を伝えるかに集中しがちでしたが、生徒の問いに耳を傾けそこからいかに生徒の自発的な学びへと誘導するかがより大切であ
ることに気づかされました。この講座は学会発表の仕方にもヒントを与えるものであり、今後も機会があれば参加したいと思います。
(丹羽淑博、東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター)
3)実施担当者
専門知識をわかりやすく伝えてほしい~COSIAの普及を目指して~
海洋科学のバックグラウンドを持つ専門家の、フォーマルな教育(学校教育)の場、インフォーマルな教育(博物館・動物園・水族館
といった社会教育施設をはじめとする学校教育外の学習の場を指す)の場への関わりはますます期待が高まっています。COSIAは、
体系的に「探究」を重視する科学教育の教授法や教育理論を学び、知識や研究を社会に伝えるコミュニケーションスキルが習得で
きる講座であり、本来、大学や大学院の学生向けの講義として半年にわたり開講することを想定したものですが、現在は、学生や学
校教員、水族館・博物館スタッフ、在野で活躍するエデュケーターや科学コミュニケーターなど一般に向けて科学の概念を伝える機会
のある多様な主体を対象としてセッションを抽出した講座を実施しています。これら実践時のフィードバックからは、アウトリーチ活動での
子どもたちの反応について疑問に思っていたことが解決できたという感想や、学んだ内容が業務にすぐ役立ち、学習企画を見直すことが
できた等のコメントが寄せられています。こういったことからも、COSIAが海洋教育に携わる人材の育成に極めて有用であることがわかって
います。
日本海洋学会はまさに海洋科学の専門家の集合体であり、既に海洋教育に尽力されている諸氏も、また、今後教育活動への
貢献が期待される若手研究者も多く在籍しています。海の自然史研究所では、これまでにCOSIAを紹介する機会を3回持ちま
したが、この講座の有用性をより多くの学会員諸氏に知っていただき、この学会からの海洋教育に関わる人材の輩出に寄与でき
るよう実践を重ねていきたいと考えています。
(今宮則子、海の自然史研究所)
3.おわりに
大会初日で併行して開催されたシンポジウムが多かったため、参加者が少なかった前回に比べて、今回は併行したシンポジウム
のない大会最終日の午後に開催することにより多くの会員が参加することを期待した。しかし、4日間の学会を終えて慌ただしく帰
途に着く会員が多かったためか、参加者数は目標の20名に遠く及ばなかった。
終了後に行なったアンケートでは、望ましい開催時期として、大会期間中のナイトセッション、特別合宿形式などの意見が寄せ
られた。また、本ワークショップ参加者を増やす方策としては、ポスター発表での宣伝、学会受付で参加の申込み受付、口コミなど
の助言を頂いた。これらのご意見を参考に、より多くの会員の参加を目指して、今後も継続して開催することを検討している。
最後に、本体験ワークショップを開催するに当たり、会場の手配その他について多大なご助力を頂いた日本海洋学会2013年度
秋季大会実行委員会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
参考
市川洋・今宮則子(2013):体験ワークショップ開催報告,JOSニュースレター,第3巻第1号,10-11.
(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2013/2013_v3_n1.pdf)
教育問題研究会ウェブサイト:
http://coast14.ees.hokudai.ac.jp/osj/COSIA/event201309.htm