日本海洋学会2014年度春季大会(ナイトセッションB)

第3回
COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)の体験ワークショップ

  • 開催概要
  • 事前申し込み
  • プログラム
  • 報告
  • 2012年度秋季大会に開催したシンポジウム「海洋の知識を社会に伝える科学コミュニケーションスキル」 に 関連した事業として、2013年度春季大会、2013年度秋季大会に引き続き、海洋学会員に、相手が能 動的に学べる海洋学習の場をつくるスキルを身につける講座であるCOSIA(海洋科学コミュニケーション実践 講座、全10回)の一部を体験する場を提供する。特に大学院学生、若手研究者、若手大学教員の参加 を歓迎する。


    日時:3月29日(土)17:30~19:30
    場所:東京海洋大学講義棟21番講義室(休憩室)
    主催:日本海洋学会教育問題研究会、NPO法人海の自然史研究所

  • 申し込みに関する情報は下記の通り。

    対象:海洋学会員、特に大学院学生、若手研究者、大学教員
    参加費:無料、
    募集人員:20名程度(要:事前登録,、定員に満たない場合は当日受付あり)
    参加申込先:教育問題研究会ウェブサイト
    http://coast14.ees.hokudai.ac.jp/osj/COSIA/event201403_form.htm
    参加申込締切:3月11日
    参加確定通知:3月18日以降にメールで参加の可否を通知
  • ※変更されることがあります

    【次第】
    17:30-17:35 趣旨説明 市川洋(海洋研究開発機構)
    17:35-19:25 「学習の場で用いる「物」の役割」について考える
           講師:都築章子(海の自然史研究所)、今宮則子(海の自然史研究所)
    19:25-19:30 閉会挨拶 今宮則子(海の自然史研究所)

    【プログラムの内容】
     学習者は、身近にある学習対象を観察することによって直観的な理解を深めることができる。しかし、 多くの人にとって海は身近な存在ではない。このため、海から遠く離れた教室、博物館、水族館など でおこなう「海洋科学コミュニケーション」活動では、直観的な理解を深めるために、写真、映像、標本、 模型、芸術作品、生きた生物、インタラクティブな展示など、科学的知識やその歴史・美しさ・重要性 などを視覚的、具体的に示す「物」を用いることが多い。
    本ワークショップでは、種々の「物」の各々が学習の場でどのように利用されているのか、どのように 学習を支えているのか、また、種々の「物」の各々を介してどのような会話や行動が生まれるのかなど、 種々の「物」の利用と役割について考える。このことを通して、種々の「物」の各々のメリット・デメリット、 適切な利用方法、学習効果の違いを理解して、学習の場で用いることの多い「物」のより効果的な 利用方法(使い分け方)を探る。

  • 第3回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告

    JAMSTEC 市川洋、海の自然史研究所 今宮則子

    1.はじめに

    「海の自然史研究所」はCOSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座、全10回)の紹介活動を全国各地で行なっている。教育問題研究会は、この実践講座の一部を体験して、今後のプレゼンテーション・授業・アウトリーチ活動に有用な情報を会員、特に大学院学生と若手の研究者・大学教員が得る場を提供するために、2013年度春季大会時と秋季大会時に、「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」を開催した。これらに引き続き、第3回体験ワークショップを2014年度春季大会のすべての研究発表が終わった3月29日の17時30分から19時30分に東京海洋大学講義棟35番講義室で開催した。1月下旬の海洋学会MLでの開催案内に応じて事前登録した会員は7名であったが、結局、9名(内6名は教育問題研究会会員)が参加した。なお、9名の内で体験ワークショップに初めて参加した会員は4名(内、学生会員2名)であった。以下に、本ワークショップの概要を報告する。

    2.概要

    ワークショップは、都築章子(海の自然史研究所)が講師となって約2時間にわたって「『学習の場で用いる「物」の役割』について考える」という主題の下で進められた。初めに、2つのグループに分かれて、「研究紹介の場で用いる『物』」について各自が何をイメージするのかを話し合った。そのあと、3つのテーブルの各々に広げられた種々の魚の写真カードを用いて、二人一組で、気に入った写真の魚の特徴を説明し合ったり、魚のグループ分けの理由の説明をおこなう体験学習を通して、「『物』を使った学習指導のあり方」を体験した。さらに、教育者が「物」を使って教える際に考えるべきこと、についての解説があった。以下に、これらの実施内容についての学生会員2名の各々の感想を示す。

    参加学生会員の感想(1)

    中野 知香(東京海洋大学大学院博士後期課程2年)
     将来の選択肢のひとつとして教育活動に携わることを考えており、このワークショップに参加しました。
     ワークショップでは、写真を利用して魚の形を観察しました。小学生向けの探究活動でしたが、このワークショップが進むにつれてわくわくする気持ちが高まっていくのを感じ、魚の面白さをもっと知りたいと思うようになりました。人に何かを伝えるときは正確さも重要ですが、どれだけ面白がってもらえるかも大切なのだと気づきました。
    ワークショップでのポイントは、学校教育や研究のアウトリーチ活動では、正確な情報を発信するだけではなく、相手の自発的な学びを促すことが必要だということでした。これは、研究の世界に閉じこもっていたら、できないことだと思います。このワークショップで、学びの促進方法を実践的に学べたことは非常に有意義であったと思います。
     大学生・院生の皆さん、「百聞は一見にしかず」です。研究の外にある世界をのぞいてみませんか?興味をもった人は、ぜひワークショップに参加してみてください。

    参加学生会員の感想(2)

    荻原佑介(東京海洋大学大学院修士2年)
    日本海洋学会を通じてCOSIAの活動にはじめて触れることが出来ました。今回のワークショップでは、目の前に散らばった魚の写真の中から一枚手に取り、その魚の特徴を周囲の人に説明するという、魚を媒体にしてコミュニケーション力・アウトプット力を鍛えるものでした。水族館でしか見ることのできないような変わった魚から普段食卓にあがるような魚まで、幅の広い魚種の中から気に入った魚を選ぶことに加え、普段は意識して見ることのない口や鰭の形などからその魚の生活を想像することは、子供だけでなく大人も十分楽しめるものでした。自分の手元にある写真の魚の特徴を捉え、整理し、簡潔に相手に伝えるということは、日常的に使用される大切なコミュニケーション能力のひとつだと思います。こういった人としての暮らしの中で必要な能力の開発と海にかかわる教材を組み合わせることで、多くの人に海を身近なものに感じてもらえるのではないかと思いました。

    その他、種々の感想が終了後に回収されたアンケート回答用紙に記載されていた。その一部を抜粋して以下に示す。

    ・学会員のなかで、こういう取り組みに興味を持っている方々と知り合えたのが良かった。
    ・他の研究者の方が自身の研究をどのような形で一般の方に伝えているのかを知る良い機会でした。
    ・物事の分類は科学の基礎なので応用範囲が広そうで、他の題材で同様の教材を作ってみたくなった。
    ・体験させるだけでなく、そこから意味のある学習を導かなくてはならないというのが、心に響きました。
    ・大学教育でも、初年度の学生に研究の話しをするときは、かなりインフォーマルな学習の場に近いと思いますので、その点でも役に立ちます。

    3.関心を集めたCOSIA実践講座の項目

    COSIAの各項目の内容を紹介するパンフレットを配布した上で、次のアンケート調査をおこなった。

    以下の海洋科学コミュニケーション実践講座項目の中で関心のある項目を選んでください。(複数選択可)
    1.海洋科学を伝える 2.科学の本質と実践 3.学習はどのようにして起こるのか  4.教授と学習 5.アクティビティをデザインする 6.会話と質問  (7.「物」の役割を考える) 8.インクルーシブ(包括的)な学習環境を作る  9.探究する心、ディスカッションを進める 10.評価と振り返り

    10項目の中で、1、2、5、9の各々が最高の3票、次いで4と8が2票を集めた。

    項目2と3は第1回体験ワークショップで、項目6と9は第2回体験ワークショップで紹介済みであるが、項目1と5に対する関心の高さが注目される。今後の体験ワークショップのテーマ選択の参考としたい。

    4.おわりに

     大会初日で併行して開催されたシンポジウムが多かったため参加者が少なかった第1回、併行したシンポジウムのない大会最終日の午後に開催したが、5日間の学会を終えて慌ただしく帰途に着く会員が多かったため参加者が少なかった第2回の経験を踏まえ、今回は大会最終日前夜(研究発表がすべて終わった4日目のナイトセッション)に開催した。大会受付にポスターを掲示し、パンフレットを配布したり、大会2日目のサイトセッション「海洋若手研究交流会」で勧誘したが、教育問題研究会会員の他に当日申込の参加者はいなかった。結局、参加者数は、前回より増えたものの、9名(内、教育問題研究会会員6名)に留まった。

    終了後のアンケートでは、適切と思う開催日や時間配分については意見が分かれたが、新たなCOSIA体験形態として「各地で開かれるCOSIAの実践活動に海洋学会会員が体験参加する機会を設ける」ことが提案された。また、「教員を目指す学生」には非常に有用であることをもっと宣伝することも提案された。これらの提案を含むアンケート結果を参考に、より多くの会員の参加を目指して、今後も継続して開催することを検討している。

     

     最後に、本体験ワークショップを開催するに当たり、会場の手配その他について多大なご助力を頂いた日本海洋学会2014年度秋季大会実行委員会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

    参考

    市川洋・今宮則子(2013):体験ワークショップ開催報告,JOSニュースレター,第3巻第1号,10-11.(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2013/2013_v3_n1.pdf)
    市川洋・今宮則子(2014):第2回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第3巻第4号,10-11.(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2013/2013_v3_n4.pdf)
    教育問題研究会ウェブサイト:http://jos-edu.com/