日本海洋学会2016年度秋季大会(シンポジウムB)
海洋科学コミュニケーション実践講座(Communication of Ocean Science for Informal Audience, COSIA)とは、米国のthe Lawrence Hall of Science (UCB)で開発された、学習 者が能動的に学ぶ海洋学習の場をつくるスキルを、教育に関わる活動を開発・実践する人々が身につ けるための講座(全10回)である。
本体験ワークショップでは、その一部として、参加者が、「人はどう学ぶのか、また、人の学び方に 関する理解を反映させた学習経験をどのようにつくるのか」についてのこれまでの研究成果の一端を 実際に体験し、概念を効果的に伝える授業を設計する際に役立つ情報を取得することを目指して、以下の内容を実施する。
1)「学習者に伝わる流れに配慮した学習プログラム」の実例として、水鳥の形態的適応 を学ぶ参加体験型学習活動を体験する。沿岸海洋研究会が主催するシンポジウム「沿岸の水産・海洋学に関わる大学教育」 と連携し、同シンポジウムの参加者(非会員)も対象とする。詳細と事前登録は、 教育問題研究会ウェブサイト(http://www.jos-edu.com/COSIA.html)を参照。
第5回「COSIA体験ワークショップ」開催報告
市川洋(教育問題研究会)、今宮則子(海の自然史研究所)
1.はじめに
「海の自然史研究所」は、米国カリフォルニア大学バークレー校に所属する科学者と科学教育の専門家により、海洋に関連のある科学を専攻する学部生や大学院生などを主な対象として開発されたCommunicating Ocean Science to Informal Audiences (COSIA)を我が国で普及・推進する活動の一環として、全国の大学などで海洋科学コミュニケーション実践講座(全10回)を実施している。教育問題研究会は、これまで学会期間中に4回のCOSIA体験ワークショップを開催して、会員、特に大学院学生と若手の研究者・大学教員が今後のプレゼンテーション・授業・アウトリーチ活動に有用な情報を学ぶ場を提供してきた(詳細は参考に挙げた資料を参照されたい)。それに引き続き、第5回体験ワークショップを2016年度秋季大会初日である9月11日の16時30分から18時に鹿児島大学郡元キャンパス共通教育棟 1 号館 3 階 132 号講義室で開催した。以下に、本ワークショップの実施内容などを報告する。
2.概要
海洋学会MLでの開催案内に応じて事前登録した会員は皆無であったが、直前まで開催されていた沿岸海洋研究会シンポジウム「沿岸の水産・海洋学に関わる大学教育」での宣伝および大会事務局のご尽力の甲斐もあって、結局、11名が参加した。ワークショップは、「人はどう学ぶのか、また、人の学び方に関する理解を反映させた学習経験をどのようにつくるのか」と題して、概念を効果的に伝える授業を設計する際に役立つ情報を取得することを目指した。最初に、今宮則子の進行により、ラーニングサイクルに基づいて設計された小学生向けのプログラムを体験した。干潟で様々な鳥が種々の餌生物をついばむ映像が示され、その特徴について意見を述べ合った後、グループに分かれて、スプーン、箸、ピンセットの各々で、輪ゴム、碁石、爪楊枝を集め、その数を集計・比較した。その後、くちばしが異なる鳥たちの会話で構成される絵本の読み聞かせがあった。これらの体験を通して、生物の多様性、数量処理・表現、個性の尊重、を学ぶものであった。その後、都築章子(海の自然史研究所)が講師となって、能動的な学びを促す教え方の視点で、体験したプログラムを振り返った。以下に、これらの実施内容について2名の参加者から頂いた感想を示す。
高校教員の感想
COSI体験ワークショップを知ったのは,この度,鹿児島大学で開催された沿岸海洋シンポジウムに参加した際,このような活動があることをお聞きし,同僚と二人で参加いたしました。
参加するまでは,恥ずかしながらこのような活動があることも全く知らず,活動を理解し参加されている他の参加者と比べて,二人は何が始まるのか分からない戸惑いと楽しみを抱いた学習者のようでした。
今回の内容は,学習者に伝えるために,ラーニングサイクル(招待する,探る,概念を考案する,応用する,振り返る)に配慮したプログラムを学習者の立場で実際に体験するものでした。最初は内容が小学生対象ということで,高校の授業では使えないかもという気持ちで聞いていたのですが,体験するうちに徐々に引き込まれていきました。学習者を飽きさせず,集中させ,能動的に参加させることにより,自ら考え,そして考えを述べるという,現在,教育の場で推奨されている,まさにアクティブラーニングそのもので,すべての授業に応用できる内容だと感じました。
今回,本ワークショップに参加の機会を与えていただきました皆様に感謝申し上げますと共に,ますますの御活躍を御期待申し上げます。
川添 博(鹿児島県立鹿児島水産高等学校教諭)
大学院学生の感想
参加者全員がゲームで楽しみながら学習することができました。干潟に生息する様々な鳥の食性をテーマにして、身近な碁石・つまようじ・輪ゴムを餌に、スプーン・ピンセット・箸を鳥の嘴、つまり餌を取る道具に見立て、実際に道具を使ってどの餌をどれだけ取ることができるかを競うゲームを行うことで、各種の鳥がそれぞれの餌を効率よく取るように体や体の一部を変化させる「適応」という抽象的なことが、体感的に理解することができました。
私は教育実習で高校生に生物を教えた経験から、ただ教科書や問題を解くだけでなく、実際に生物を観察したり、フィールドに出向いて調査・研究をすることで理解がより深まると考えており、今回の講座で教わった内容は学生への教育に大きく生かすことが出来ると考えます。
当日参加していたプロの研究者達や研究者の卵である大学院生も非常に好評で、学生に教える大学の研究者、水族館関係者等の方に受講をお勧めします。
橋本 瞭(鹿児島大学 水産学研究科水産学専攻修士課程学生)
3.おわりに
終了後におこなったアンケート調査では、時間配分については「適切であった」、内容については、「おもしろかった」、「分かりやすかった」などの高い評価をいただいた。開催時期・場所については、今回のような大会期間中に会場でおこなうことに賛同する意見が多かった。これらの回答に力を得て、次回の体験ワークショップを本年10月に仙台市で開催される2017年度秋季大会の期間中に開催する予定である。皆様のご参加をお待ちしております。
最後に、本体験ワークショップを開催するに当たり、沿岸海洋研究会シンポジウムとの連携にご尽力いただいた小針統さんと、会場の手配、その他について多大なご助力を頂いた日本海洋学会2016年度秋季大会実行委員会の皆様に厚く御礼申し上げます。
参 考
「海の自然史研究所」COSIA解説サイト:
http://www.marinelearning.org/cosia/
過去の体験ワークショップの記録:
http://www.jos-edu.com/COSIA.html
市川洋・今宮則子(2013):体験ワークショップ開催報告,JOSニュースレター,第3巻第1号,10-11.
市川洋・今宮則子(2014):第2回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第3巻第4号,10-11.
市川洋・今宮則子(2014):第3回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第4巻第3号,10-11.
市川洋・今宮則子(2015):第4回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第5巻第2号,11-12.