海のサイエンスカフェ

日本海洋学会教育問題研究会



第9回海のサイエンスカフェ報告

【参 加 者】 17名(一般:8名、海洋学会員:2名、教育問題研究会会員:7名)

【進行担当者からのメッセージ】

  当日は春の嵐で、開催前は雨こそ降っていなかったものの風が強く、路線によっては電車が運休していたようでした。そのような天気のなか、サイエンスカフェに参加して頂いた皆さんに感謝致します。開催場所であるヴァージンカフェ品川は、駅直結の便利でおしゃれなカフェで、良い雰囲気のなかでサイエンスカフェを実施することができました。
 今回は、参加して頂いた皆さんが会場に到着した際にアンケートを配布、会の初めに自己紹介をして頂くことをお願いし、またその際に「今日、主に何について海洋学会員と語り合いたいか」をお話し頂きたいことを伝えました。サイエンスカフェは、開始予定時刻の11時を少し過ぎたころにスタートしました。まずはじめに学会員による自己紹介を行い、次に参加者の皆さんに自己紹介して頂きました。自己紹介により、海洋に対して漠然とした興味を持っている「文系」の方から、仕事で海洋に関わっており、今回はさらに詳しい知識を得るために参加して下さった方まで幅広い方々が参加していることを参加者全員で共有できたと思います。
 その後、小橋さんによる話題提供が行われました。小橋さんには、自身が海洋に興味を持った経緯から話を始め、海洋の循環を知るには何を観測すれば良いのかなどを分かりやすく、そして最新の研究成果も交えて話して頂きました。アンケートによると、話題提供の途中から参加された方以外は、「よく」または「だいたい」理解して下さったようです。話題提供の後、参加者から海面が凸凹になる理由に関する質問があり、その回答にしばらく時間を使いました。話題提供者の小橋さん、そして海洋学会員の小田巻さんがその理由を丁寧に説明することにより、「文系」の参加者にも最終的に理解してもらうことができたようです。話題提供の後のディスカッションは、2グループに分かれて行いました。一つは、話題提供者の小橋さんを中心としたグループで、話題提供の際に議論になった海面が凸凹になる理由についてさらに突っ込んだ議論を行いました。もう一つのグループでは、コリオリの話やイワシの話など、多岐にわたる話題が話し合われました。今回のサイエンスカフェは、海洋学会員からの情報提供だけでなく、海洋に近い分野で仕事をされている参加者からの解説により、われわれ海洋学会員も「文系」の参加者も理解を深めることができると言う、充実した会となりました。参加して下さった皆さん、そして素晴らしい会場を提供して頂いたヴァージンカフェの方にお礼を申し上げます。

上野洋路

【話題提供者からのメッセージ】

 「海流のなぞにせまる-人工衛星からみる海流」というタイトルで話題提供をさせていただきました。海流は、生物や化学物質の広がり、魚の回遊、気候変動に大切な役割を果たしていますが、常に同じように流れているわけではなく、時間と共に流れの強さや場所を変えながら大きく変化しています。今回のサイエンスカフェでは、このような海流の動きを捉えることができる人工衛星観測に焦点を当て、衛星から海流を測るしくみやその観測から見えてきたダイナックな海流の動きについて紹介しました。
 当日は、ベテランの学会員の先生方や過去にサイエンスカフェで話題提供をされた方々も多く参加されていたため、わからないことはフォローしてもらえるという安心感があり、このような場に不慣れな私でしたが、落ち着いて話すことができました。また、会場となったカフェのご厚意により通常の営業時間前にお店を使わせていただいたおかげで、静かな店内で周囲に気を遣うことなく、リラックスした雰囲気で行うことができました。私の話については、一方的に話すのではなく、もう少し参加者と対話しながら進めた方がよかったかなと反省しましたが、幸い、事後のアンケートによれば、皆さん概ね理解できたということでうれしく思いました。
 話題提供の後の懇談会では、参加者から熱心な質問が次々と出され、普段の研究者同士の話とは違う視点からの質問や参加者の熱意に触れて、私自身とてもよい刺激を受け、対話を楽しみました。質問については、できるだけ専門用語を使わず、わかりやすい言葉で説明するように心掛けましたが、自己採点で50点ぐらいでしょうか。他の先生方の説明を聞いてとても勉強になりました。次回、またこのような機会があれば、ぜひこの経験を活かしたいと思います。最後に、参加して下さった方々、それから準備段階から丁寧なアドバイスを下さった市川さんと上野さんをはじめとする海洋学会教育問題研究部会の方々にお礼申し上げます。

小橋史明

【担当者からのメッセージ】

 これまでの東京での4回の「海のサイエンスカフェ」の会場について、参加者から、BGMおよび他のお客が傍に居てちょっと騒がしいことと、喫煙スペースから漏れてくる匂いが指摘されたため、新たなサイエンスカフェ会場を1月下旬に探しました。雰囲気が良さそうで、昼間は禁煙である「ヴァージンカフェ品川」に打診したところ、土曜日は12時開店であるが、予約があれば11時からでも、追加料金不要で貸切が可能との説明を聞き、予約をお願いしました。ただし、当日になって昼間の禁煙が中止になっていたのが判明し、12時以降に入店した一般客のため、一部の参加者に不快感を与えてしまい、お詫び申し上げます。次回からは、貸切あるいは禁煙スペースの利用を検討します。
 今回のサイエンスカフェへの一般参加者数は8名と目標の20名に比べかなり少数でした。海流という、一般にちょっと難しいと感じさせる話題であったことも原因だと思われ、表題にもっと工夫が必要だったのではないかと思います。事前に申し込まれた8名の内の3名が欠席されたので、その原因の一つには、悪天候があるかもしれません。なお、3名の当日飛び込み参加がありましたので、事前登録を求めない方式を今後も継続していきたいと思っています。
小グループ分けの際に、8名中6名の一般参加者がさらに詳しい話を小橋さんとすることを希望されました。参加者の希望を優先した結果、小橋さん、上野さん、6名の一般参加者のグループAと、その他(一般参加者2名、教育問題研究会員6名)のグループBの2つに分かれて懇談しました。グループBでは、海洋物理学を専門とする教育問題研究会員4名が一般参加者2名および海洋物理学を専門としない教育問題研究会員2名と海流を題材に種々の話題について話す形になりました。一般参加者のアンケート回答には大きな不満は記されていませんでしたが、希望が偏った場合のグループ分けの方法の検討が今後の課題として残りました。
 一般参加した筆者の友人から、全体について詳細なご意見を頂きましたので、ご当人の承諾を得て、以下に公開します。
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 小橋さんの意欲あふれる説明も好感が持てました。ただ、市川さんがおっしゃってたように、若干、難しかったかもしれません。無論、私の知らない情報も有り、興味深く、かつ心地よく聞かせて頂きました。と言う意味で、私にはちょうどよかったのですが、おそらく、あのお話は、一般庶民には相当ハードルが高かったのではないか、と思います。というのはエラそうな言い方かもしれませんが…。もうちょっと、もう一歩下がって、そもそも、海の流れ、とは、言う整理をしてもらった方がわかりやすかったろうな、と思いました。世間でよく言う「潮流」っていうのは、ここで言う海流とは違うんだ、ということは、小橋さんのお話の中で触れられてはいたんですが、多分小橋さんの説明で分かった人は、もともと分かっている人だけだったろうな、と思いました。なぜ流れというものができるのか、これは後の議論で質問として出ていましたが、そもそもそれが分からないまま、深遠なところに入ってしまったので、そもそもの説明の中に水が動く理由、を説明しておいてもらうとよかったと思います。
 また、質問への答はあまり答になっていなかったように思います。あの質問をした人の、質問をした背景を考えてあげれば、ああいう説明にはならないんだろうな、と思いました。もっと、入り口のところを聞いておられたように思います。入り口が分かれば、面白い話題なので、素人衆もどんどん議論に入っていけるんだと思いましたが、逆に、そこをしくじると、「やっぱり難しかった」ならまだいいですが「つまらなかった」で終わってしまうのかも。ほかにも、まあ、一杯、「おいそれじゃ判らんよ」と思ったところがありましたが、この辺り、オーディエンスのリテラシーをどう設定してサイエンスカフェをやっておられるかにもよるんだと思います。
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 貴重なご意見をありがとうございました。一般参加者を広く募集しているため、「オーディエンスのリテラシーをどう設定」するのかは難しい問題です。「海のサイエンスカフェ」は一般参加者と学会員の対話を通して、海洋学会員が「適切な対話の方法」を学ぶ場でもあります。この意味で、話題提供・質疑応答中に、筆者がもっと積極的に話題提供者、進行担当者をサポートすべきであったと深く反省しています。
 このこともあって、9月に静岡で開催される海洋学会2012年度秋季大会では、海洋学会員を主な対象として「海洋に関わる知識や研究を社会に伝えるコミュニケーションスキル」についても議論するシンポジウムの開催を計画しています。当日、参加していただいた方々に御礼申し上げますとともに、今後の私たちの行動を見守ってくださいますよう宜しくお願い申し上げます。

教育問題研究会サイエンスカフェ担当:市川洋