海のサイエンスカフェ

日本海洋学会教育問題研究会



第14回海のサイエンスカフェ

「魚はいつも何を食べているの? 」

~筋肉の化学成分から探る~

話題提供: 梅澤 有(長崎大学)

進行: 上野 洋路(北海道大学)

日時: 平成26年9月13日(土曜日) 10時30分-12時00分

場所: 長崎ピースミュージアム

主催: 日本海洋学会教育問題研究会

担当: 上野洋路・川合美千代

【参 加 者】23名(社会人:7名・学生:7名、海洋学会会員:9名(うち教育問題研究会会員:6名))

【内容】
水産県でもある長崎周辺の海は、多くの魚類のほか、スナメリやイルカなどの海棲哺乳類も多く生息する宝の海になっています。魚が食べているものは、魚の胃の内容物や行動観察から測り知ることができますが、なかなか大変な作業で、常時の行動かどうかもわかりません。今回は、魚の筋肉の化学成分から、魚がどのようなものを食べて生きてきたのか明らかにしていく試みについて紹介していきます。


【話題提供者からのメッセージ】

 今回は、水産県である長崎県での開催を意識し、より地元の方の興味にあうテーマということで「魚はいつも何を食べているの?~筋肉の化学成分から探る~」という題目を選び、話題提供をさせていただきました。魚や海棲哺乳類が食べているものは、胃の内容物や行動 観察から測り知ることができますが、それはあくまでも瞬間的な摂餌物・摂餌行動を見ているだけで、常時の摂餌物かどうか分かりません。そこで、安定同位体比という概念についての解説後、魚の筋肉の安定同位体比分析から、魚がどのようなものを食べて生きてきたのかを明らかにしていく試みについて紹介しました。安定同位体の概念や、自然界で安定同位体比が異なる物質が生じていくしくみについては、大学生を相手にしても説明が難しいものです。そこで、元素を模したゴムボールの重さを調整し、かつ、ボールの内部に仕込んだマグネットの強さを変えることで、同位体元素とその反応の違いについて再現できるようにし、参加者に実感してもらいながら理解してもらう工夫をしました。今回は、このボールの他に、ポロシャツや、ビデオ映像、クリッカーなど、様々な飛び道具を使用したこともあり、単調にならない話題提供ができたのではないかと思っています。
 会場となったナガサキピースミュージアムでは、9月2日~28日に「発見、長崎の海大辞展」という長崎近海の海の様子や、海の研究について紹介するイベントを行っており、私は、長崎大水産学部の展示物の取りまとめ役をしていました。そのため、準備段階から、このイベントの展示物と、サイエンスカフェで話す内容がうまく調和するようにイメージしながら行うことが出来たことは、話題提供側としての大きなメリットでした。また、この展示会の様子や、ギャラリートーク(サイエンスカフェ)の開催については、NBC長崎放送や、NIB長崎国際テレビでのニュース、さらに長崎新聞などでも取り上げていただきました。更には、長崎市内の高校を中心に40校程度、近隣の漁協20件程度、市内の公民館や行政関連施設など60件程度にも、チラシを送付しました。しかしながら、当日に集まって頂いた市民の方の中で、メディアや送付したチラシを見て来ていただいた方は1-2名でした。著名人の方の講演会には多くの方が集まるにも関わらず、サイエンスカフェの集客力が低いという実態を変えていくには、宣伝方法だけでなく、サイエンスカフェの実施方法についても、地域の実情に応じた工夫が必要かと思っています。今回、地元で小学生や地域の方を対象として環境教育をされている参加者の方から、別の機会で話題提供することについても声をかけていただきましたので、そのような機会を利用して、サイエンスの普及にも努めていきたいと思っています。
 最後に、参加者の皆様、準備段階から的確なアドバイスを下さり、当日の話題提供中も質問でサポートして下さった上野さんをはじめとする海洋学会教育問題研究部会の方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

(梅澤 有)

【進行担当者からのメッセージ】

 今回のサイエンスカフェでは、話題提供者の梅澤さんに会場選びから、広報、使用機器の準備まで担当して頂き、大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。会場として使用させて頂いた長崎ピースミュージアムは、参加者と話題提供者が近い距離で話すことになる広さでありながら開放的であり、サイエンスカフェの実施には大変適した環境でした。会場を使用させて頂き、ありがとうございました。当日は、ミュージアムのすぐ裏手に大きなクルーズ船が停泊しており、港町そして観光都市である長崎を実感しました。また、今回のサイエンスカフェは、長崎ピースミュージアムで開催中の「発見、長崎の海大辞展」のギャラリートークとしても開催致しました。
 サイエンスカフェは、海洋学会会員を含む参加者の皆さんに簡単な自己紹介をして頂くことから始めました。その後に話題提供者の梅澤さんにミュージアム内で開催されている「発見、長崎の海大辞展」の写真やパネルについて説明頂き、続いて話題提供を行って頂きました。話題提供は、重さを変えたボールを使った安定同位体の説明や、ビデオを使った魚の生態の説明、さらにクリッカーを使った参加者の理解確認を随時行いつつ進められました。話題を理解するためには、安定同位体という普段耳慣れない言葉の意味をある程度は理解する必要があり、参加者の皆さんは初め少し戸惑ったのではないかと思います。しかし、最終的には参加して頂いたほとんどの方によく理解、またはだいたい理解して頂くことができたようです(アンケートより)。これは、梅澤さんに丁寧に説明して頂いただけでなく、参加者の方から適宜、的を射た質問やコメントをして頂いたためと思います。ありがとうございました。また、参加者のほとんどの皆さんから「目から鱗!の驚きを感じた内容があった」とアンケートで回答して頂きました。私自身にとってもスナメリがごくごく身近な海に数多くいるという事実に大変驚きました。話題提供の後には20分程度の意見交換の時間を持ちました。多くの質問やコメントを頂き、私としても大変勉強になりました。今後のサイエンスカフェでも、この様な双方向性をさらに活かしてゆきたいと思います。最後に、サイエンスカフェに参加して頂いた皆さんにお礼を申し上げます。ありがとうございました。

(上野 洋路)