海のサイエンスカフェ

日本海洋学会教育問題研究会



第15回海のサイエンスカフェ

「微化石が語る過去の海」

話題提供: 小野寺 丈尚太郎(海洋研究開発機構)

進行: 橋濱 史典(東京海洋大学))

日時: 平成27年3月21日(土曜日) 10時00分-11時30分

場所: ヴァージンカフェ品川

主催: 日本海洋学会教育問題研究会

担当: 上野洋路・川合美千代

【参 加 者】19名(社会人・学生:11名、海洋学会会員:8名(うち教育問題研究会会員:5名))

【内容】
昔の海の環境を知ることは、過去の地球、そして未来の地球環境を理解する上でとても重要です。海中を漂う粒子が海底に降り積もって出来た地層には、プランクトンなどの死骸が「微」化石として含まれており、昔の海の環境をさまざまな形で記録しています。今回の海のサイエンスカフェでは、海の微化石を調べることで、過去の海についてどのようなことが分かるのか、実際に顕微鏡で微化石を見て頂きながら、過去300万年間の海洋環境変動研究の一部を紹介していきます。


【話題提供者からのメッセージ】

 今回 「微化石が語る過去の海」というタイトルでお話をさせていただきました。まず自己紹介で微化石を扱うことになった経緯を簡単に紹介したのち、微化石とは何かというところから解説を始めました。次に微化石の集め方を紹介し、ここで簡単な方法を実践してもらう企画として、航海中に得られた海底堆積物から珪藻化石を簡易的に集める方法の一つを参加者の皆さんに体験していただきました。続いて、海の堆積物において主要な微化石にはどのようなものがあるのか、円石藻、珪藻、有孔虫、放散虫について走査型電子顕微鏡の殻画像を示しながら手短に紹介しました。その後、微化石として先に示した生物群の一部が海底堆積物に保存されるプロセスを説明し、また生物ポンプ効果のように生物活動が環境変動に影響を与えることがあることも示しました。橋濱さんの進行のもと、ここで一度質問コーナーとなり、参加者からの質問に答える形で、海底堆積物を採取する幾つかの方法を解説しました。また、微化石が堆積物に埋没後に受ける続成作用についても質問を頂いたので、生物源オパールを持つ微化石を例に、珪藻などの珪質微化石が堆積層深部で変質して失われてしまう過程があることを説明しました。また、微化石が砂泥層だけでなくチャートなどの岩石に保存されるケースについても触れました。その後、実際に微化石を用いて過去の海洋環境をどのように調べるのか、浮遊性有孔虫群集の生物地理分布を活用した分かりやすい研究例を一つ紹介しました。解説の最後に自分の研究内容を紹介するコーナーとして、珪藻化石群集を用いたベーリング海の過去360万年間の寒冷化傾向を示し、寒冷化による海水準低下を反映したベーリング陸峡形成イベントと陸橋を渡った陸上生物の地理分布との関係について紹介しました。ここまでの解説には約35分かかりましたが、そのあとは店内に並べた実体顕微鏡5台および携帯用生物顕微鏡2台を使って、様々な海域や地質年代から採取された有孔虫化石や珪藻化石を参加者の方に見て 頂きました。フリーディスカッションや質問のコーナーでは、微化石を用いた年代決定法や、微化石の化学分析について、微化石を使った研究の進め方、 湖沼など陸域での微化石研究について、日本とその周辺において微化石が関係する最近のホットトピックは何か?微化石を使った古海洋研究で一番わくわくする瞬間はどんな時か?といった様々な質問を頂きました。また、私の拙い説明内容を咀嚼して分かりやすく再構築してくださる参加者もいて、説明者として助かると同時に、自分の説明の至らなさを認識する機会にもなりました。
 海洋学会教育問題研究会の皆さんには、今回大変良い経験をする機会を与えてくださり、どうもありがとうございました。普段は顕微鏡とパソコン画面と対面してばかりなので、一般の方と自分の研究に関する交流を1時間半にわたってする機会は今回が初めてでした。参加者から頂いた質問のなかには普段あまり意識していなかった部分を指摘するものもあり、多様な交流の重要性も改めて感じました。解説の構成については、基礎知識の説明と自分の研究紹介のバランスが少し偏っていたかもしれません。またいつかどこかで同様の機会を得た際には、今回の経験を活かしてもう少し上手く紹介できたらと思います。

(小野寺丈尚太郎)

【進行担当者からのメッセージ】

 穏やかな春の陽気の中、ヴァージンカフェ品川にて第15回の海のサイエンスカフェが開催されました。今回の話題はJAMSTECの小野寺丈尚太郎さんによる「微化石が語る過去の海」でした。
 最初に小野寺さんの自己紹介を行い、その後、微化石とは何かの説明、微化石の採取方法、化石になるプロセス、微化石から得られる過去の環境情報の紹介、微化石試料を用いた観察体験、フリーディスカッションの流れで進行しました。進行途中に専門用語がでてきた場合など、一般参加者の方に理解を深めて頂くために、小野寺さんと協力して、よりかみ砕いた言葉(表現)を用いて説明するよう配慮しました。また、一般参加者とのコミュニケーションが重要事項かつサイエンスカフェの主旨ですので、研究者側が一方的に話題提供するのではなく、一般参加者の方から随時コメントを受け入れる体制で進行しました。  開始してから10分くらいの間は、一般参加者からのコメントは少ない傾向にありましたが、小野寺さんの和やかで親しみやすい語りかけが徐々に浸透し、その後はコメントが絶え間なく続く場に一変しました。配付資料の説明だけでも一般参加者と研究者の溝が解消され、サイエンスカフェならでは雰囲気に満ちあふれていましたが、極めつけに微化石試料を用いた観察体験が一般参加者の心を射止めました。観察体験では、顕微鏡を用いて実際に有孔虫化石や珪藻化石を観察しましたが、一般参加者はそれらの美しさに感動して釘付けになり、まさに「美」化石の効能でした。
 今回は、1時間半と短い時間でしたが、内容は盛りだくさんで、一般参加者の方には十分満足して頂けたのではないかと思います。小野寺さんに用意して頂いた全ての試料を観察してもらうことができなかったのが残念でしたが、結果として準備物がネタ切れするよりは少し余るぐらいの方がその時々の進行状況にフレキシブルに対応できるので良かったのではないかと思っています。小野寺さんには試料や顕微鏡の周到な準備をして頂きました。お忙しい中、ありがとうございました。また、私は今回初めての司会を担当しましたが、市川さんや川合さんからアドバイスを頂き、無事終えることができました。深く感謝いたします。

(橋濱史典)