海の酸性化と生物
~未来の海を考える~
今、人間が日々排出している二酸化炭素が海に溶け込むことによって、海水の酸性度が
急速に増加しています。海水が酸性化すると、貝類やウニ類、サンゴ類や甲殻類など、
私たちにとってなじみ深い石灰化生物の多くが被害を受けることが明らかになってきました。
今回のサイエンスカフェでは、「海の酸性化」について分かりやすく解説し、酸性化が海の生き物
にどのような影響を与える可能性があるかを紹介し、サンゴ礁を例に未来の海とそのあり方ついて
考えたいと思います。
- 主催
- 日本海洋学会教育問題研究会
- 話題提供
- 栗原 晴子さん(琉球大学)
- 進行
- 川合 美千代さん
- 日時
- 平成28年3月19日(土曜日) 10時00分-12時00分
- 場所
- TULLY‘S COFFEE (タリーズコーヒー) 品川インターシティ店
東京都港区港南2-15-2 品川インターシティ A棟 2F TEL:03-6433-2580
品川駅港南口連絡通路右前方インターシティA棟入ってすぐ
- 参加者
- 16名(社会人10名・大学生1名・海洋学会会員5名(うち教育問題研究会会員3名))
- 進行担当者報告
- 新たにインターシティのTULLY'S COFFEEに会場を移して、品川では8
回目となる海のサイエンスカフェを開催しました。「海の酸性化と生物」
というタイトルが魅力的だったのか、当日は11名の一般参加者がありました。
はじめに参加者の皆さんに簡単な自己紹介をしていただきました。サイエンスライタ
ーをされている方、いろいろなサイエンスカフェに参加している方、ご家族の付き添
いでこられた方、元海洋学会員など、興味の方向も知識の程度も様々な方がいらっし
ゃいました。次に、栗原さんに話題提供をしていただきました。初めにご自身の自己紹介
があり、笑いをとりながら、場の雰囲気を楽しく和やかにして下さいました。途中、
化学式が出てきた箇所は説明を繰り返してもやはり分かりにくかったようでしたが、
実際の現場観測の話に入ると、多くの途中質問や意見が出されました。参加者全員
から質問が出たように思います。それらに対する栗原さんの豊富な知識に基づく
返答がまた興味をひく内容ということもあり、とても活発なやりとりがなされました。
最後の20分程度、小グループで様々な話題について意見交換をしていただき、
研究会会員も参加者の方々と色々なお話をさせていただきました。
アンケート調査の結果では、酸性化について全く知らなかった方、特に海に対する
興味が無いという方もいらっしゃいましたが、全員が「面白いと感じた」と回答し
てくださいました。一方、「一部理解できないところがあった」というご意見もあ
りました。化学反応に関する話は、よっぽど噛み砕かないと伝わらないということ
を改めて感じました。
今回の会場はオープンスペースだったので、話題提供者が栗原さんのように声の
通りが良い人でなければ、聞き取りにくいという問題が出るかも知れません。
ただ、窓が大きく、明るく、開放感のある雰囲気が素敵でした。また、参加者全員
が一つの輪となる配置だったため、全員参加の一体感も生まれたように思います。
今回の海のサイエンスカフェは、これまで私が担当した中でも特に活発で雰囲気の
良いものになったと思います。話題提供者の栗原さんのお人柄と、Tully's Coffee
の雰囲気、参加して下さった皆さんからの活発な質問・ご意見のおかげです。皆様の
ご協力に心より御礼申し上げます。
(川合 美千代)
- 話題提供者報告
-
第17回目のサイエンスカフェにて、[海の酸性化と生物]というタイトルで話題提供させ
ていただいました。今回は大気二酸化炭素濃度の増加が、[海]に及ぼす影響の一つ
として、[海洋酸性化]について話をしました。始めに地球規模での炭素循環について
簡単に紹介すると共に、海が実は[炭素の貯蔵源]として極めて重要な役割を果たして
いることについて話をしました。その後、大気中に増加した二酸化炭素が現在急速に海
に溶け込みつつあり、その結果海水の炭酸化学環境が大きく変化しつつある話をしまし
た。その際海水のpHが低下する、というところまでは良かったのですが、炭酸平衡や
海水の緩衝効果、さらに炭酸カルシウム飽和度が低下する機構について話が及んだ時点
で皆様の顔に「はてなマーク」が浮かんできて、少し動揺。しかし、そこはすかさずそ
の場にいた海洋学会員や進行担当の川合さんにフォロー頂き、また聴衆の皆さんが非常
に積極的に質問をしてくださったおかげで,少し分かりづらくなったら、その都度全員
で議論をしながら疑問を解決して行くスタイルで会は進行していきました。その後は
サンゴの骨格標本や、JAMSTECの木元さんからお借りした有孔虫の模型などを使いな
がら、酸性化が炭酸カルシウム骨格を持つ生物に与える影響について紹介をしました。
またパプアニューギニアや硫黄鳥島で近年発見された、二酸化炭素湧出海域での研究例
を元に、海洋酸性化がサンゴ礁生態系の改変や生物多様性の低下に繋がる可能性につい
て紹介しました。一方で、パラオには海水中の二酸化炭素濃度が高いにも関わらず、
高被度で多様なサンゴ群集が見られる海域について紹介し、生物による環境への
適応能力や生態系の複雑さについて紹介しました。また最後には、我々が普段食べてい
る貝類や甲殻類などに対する影響について紹介し、将来の海について参加者全員で
議論をしました。
話す前は学会発表とはまた少し違う緊張感をもって臨みましたが、皆様が非常に積極的
に質問をしてくださり、また参加者が私の拙い説明を分かりやすく解説頂いたり、参加者
同士で意見を交換したりと、全員参加型のカフェとなり、私自身も皆さんと話をしてとっ
ても楽しく、大変勉強になりました。またこのような機会があれば、是非ともお話をしたい
と思いました。最後にサイエンスカフェで話すにあたり、上野さん、川合さんには様々な
アドバイスを頂き大変お世話になりました。ありがとうございました。
(栗原晴子)
- 参考
- 当サイエンスカフェに参加した田端萌子さん(サイエンスライター)による栗原研究室取材記事は
こちら