SCIENCE AGORA 2014

サイエンスアゴラ2014参加出展企画

わたしたちの生活と海の研究

ブース出展報告


1.はじめに

 2014年11月7日から9 日まで東京お台場地区を主会場としてサイエンスアゴラ2014が開催された。教育問題研究会は、このイベントに学会一般会員、環境問題研究会、沿岸海洋研究会の協力を得て、展示ブース「私たちの生活と海の研究(ブース番号:A1-022)」を出展した。以下に、このブース出展の概要を報告する。

2.準備

5月22日に公示されたサイエンスアゴラ2014参加企画公募の中に示された今年のテーマ「あなたと創るこれからの科学と社会」およびサブテーマ(A 科学はどこまで進歩しているか? B 環境のためにできること C 科学のある生活 D 科学と社会の結びつき E科学をよりよく進めるために F 未来の科学者のために G世界の国々が科学でつながる)は、海洋学会から社会へ向けて発信したい情報そのものであると考えた。そこで、海洋教育に関わる情報提供のほかに、海洋学会内の各研究会の各々の活動および学会員の最新の研究成果を一般(中学生程度の知識レベル)に理解可能な内容のポスターで示すブースを出展することを企画した。
学会MLで学会会員に、教育問題研究会内で作成した参加企画原案を提示して、ポスター出展を呼びかけた。企画に賛同したポスター展示応募者および立会説明参加予定者で企画案の改訂作業を進め、6月17日(受付最終日)に出展企画を申請した、その際に、他に海洋関連のブース出展企画がある場合には、それらと隣接したブースの配置を要望した。
8月1日に提案企画の採択通知を受けとり、本格的な準備作業を開始した。当初は一般企画として8日と9日の2日間を申請していたが、事務局の依頼により、7日からの3日間の出展となった。

3.出展概要

来場者に配布したブース出展の趣旨は以下の通りである。
世界の海は水産漁業、海上輸送、海辺でのリクリエーション、台風などの気象現象、海洋エネルギー利用、気候変動、などを通して私たちの生活と強くつながっています。しかし、海については、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。世界中の研究者が観測船、人工衛星、コンピュータなどのさまざまな道具を使って海のなぞに挑戦しています。小学生から大人まで、紙芝居や絵本を見たり、海洋学者とお話したりして、海のことを楽しく学んでいただきます。 この趣旨にそって、幅4m、奥行き3mのブース内で、7~9日の3日間、毎日10時から17時まで、以下の展示・実演を行った。詳細は以下のウェブサイトを参照されたい。
http://www.jos-edu.com/scienceagora/2014.html


1)自作の紙芝居「おにぎりとうみ」公演(8日と9日の午後のみ、担当:乙部弘隆)。
2)「海のトリビア」全国巡回展で使用されていた2つのゲーム
「この子だれの子? 親子を探せ」、
「ウンチでつながった海のおもしろお話し! 海のトイレット」
を展示(協力:「船の科学館」、主な担当者:岸道郎、福島朋彦、伊藤進一)。
3)生きたプランクトンの顕微鏡観察体験
当日の朝に「船の科学館」前の岸壁にて採集したプランクトン (固定せず) の実体顕微鏡観察、スマホ顕微鏡を装着したタブレット端末による解説、スマホ顕微鏡を装着したスマートフォンによる画像・映像の持ち帰り(担当者:菊池知彦、藤井直紀)。
4)ポスター展示 
  教育問題研究会が作成した海洋学会および教育問題研究会の活動を紹介するポスター2枚(担当:市川洋)の他、以下の研究会、研究グループ(敬称略)から提供された各1枚のポスターを展示。
  日本海洋学会環境問題研究会(提供:磯辺篤彦)、
  日本海洋学会沿岸海洋研究会(提供:速水祐一)、
 「黒潮と日本の天気」(提供:科学研究費補助金新学術領域研究「気候系のhot spot」
   研究グループ、立会説明:野中正見)、
 「海洋放射能汚染予測シミュレーションシステムは作れるのか?」
  (提供:住友財団研究助成プロジェクト「海洋放射能汚染緊急対応予測システムの提案」研究チーム、立会説明:升本順夫)
5)本、資料などの展示 
  海を題材とした絵本、教育問題研究会が関与した海洋教育に関わる副読本・ウェブ教材、海洋学会パンフレット、ヒトデなどのぬいぐるみ人形(提供:西山真樹)、海洋学分野と関係する進学先・就職先情報を提供する書籍を展示(担当:市川洋)
 
 サイエンスアゴラ2014ウェブサイトに掲載された開催報告よると今回の出展数は188件(172団体)で、参加者数は約1万人(その中の約2700 名が出展関係者)であった。割り当てられた展示ブースがメイン会場である科学未来館1階中央部にあって、展示テーマが海洋とかかわっていた「日本が資源大国!!海水からリチウム資源回収の最前線!(日本原子力研究開発機構)」、「海から地球環境変動をとらえる(海洋研究開発機構)」と隣接していたこともあって、多数の親子、出展者、関係者がブースに来訪した。特に、上記1)、2)、3)については多くの親子が楽しんでいた他、科学コミュケーション関係者が高い関心を示していた。また、上記4)と5)については、数は少なかったものの関心を示した学校教育・科学コミュニケーション関係者と個人的に意見を交換することができ、海洋教育の必要性の認識が広がっていることを実感できた。
 以下に、担当者の寄稿を示す。

出展参加体験記

野中正見(海洋研究開発機構)
 科研費新学術領域「気候系のhot spot」(研究代表者:東京大学 中村尚)の研究成果の一部をまとめたポスター「黒潮と日本の天気」の展示と立会説明をさせて頂いた。サイエンスアゴラは勿論、教育問題研究会主催のイベントに参加させて頂いたのも初めてであったが、多くの方と話をさせて頂く機会に恵まれ大変貴重な経験であった。  ブース来訪者の興味の中で「最新の研究成果」の内容は最も深い所にあったため(盛り沢山な企画が詰め込まれた展示ブースの配置上も最も奥でしたが)、ポスターの内容にまで興味を持って頂いた人の数は限られていた。しかし、事前に市川さんからコメントを頂き、短い言葉で説明できるポスターにしていたことでうまく内容を伝えられたように感じた。  ポスター立会説明以外でお手伝いした「親子を探せ」は大人気で、ハマってくれた子供の親御さんにはゆっくりと海洋学会の説明や、海洋に関する学校教育の少なさの問題、家庭でも子供達に海についての色々なお話をして下さい、等といったお話をすることも出来た。ただ、そこに集まっていた子供の多くは元々海にかなり興味がある(ので学校で習わなくでも自分で色々学んでいる)ということも感じ、海への興味を持つ人の裾野を広げるということの難しさも改めて感じた。

プランクトン顕微鏡観察体験を担当して

菊池知彦(横浜国大)
サイエンスアゴラ2014において「スマホ顕微鏡・実体顕微鏡によるプランクトン観察」を3日間に渡って担当させて頂きました。3日間とも、開場前に会場近くの岸壁で手曳プランクトンネットにより採集したプランクトンをブースに設置した実体顕微鏡にセットして来場者の観察に供しました。当初は、実体顕微鏡に何をセットしているのかのを明示していなかったことにより来訪者の関心が低くかったのですが、「今朝、会場前の海で採集したプランクトンです」と明示してからは興味をもって顕微鏡を覗いてもらうことが出来ました。
 来訪者のほとんどが海のプランクトンを実体顕微鏡で観察することが初めてで、感嘆の声と共に、幾何学模様の珪藻や動き回るカイアシ類やゴカイなどの幼生についての質問を頂くことが出来ました。実体顕微鏡の横では藤井直紀さんに「スマホ顕微鏡」を用いたプランクトン観察の実演を行って頂いたところ、多くの方が想像以上の画面に見入っていて、自らのスマホで観察・写真撮影に挑戦した方も多くおりました。小中高校生の殆どはスマホや携帯電話を持っていなかった(学校や親に携帯を禁じられている)ため、実体顕微鏡の観察だけとなりましたが「スマホ顕微鏡」では、保護者や一般成人の方々が興味を示し、体験して頂けました。
 実体顕微鏡、スマホ顕微鏡ともに生きた実物観察の体験は参加者を海の話しに引き込むには極めて効果的だったと思いました。

4.おわりに

3日間のブース出展は、海洋学会にとって、これまでの2011年と2012年の2回のシンポジウム開催と異なり、初めての試みであった。子供から大人までを対象とした盛りだくさんな内容であったが、不特定多数の来場者と様々な対話ができた点で非常に実り多いイベントであった。特に、紙芝居、「親子を探せ」、「プランクトンの顕微鏡観察」に夢中になって興じている個性豊かな子供たちの真剣な眼差しは、横から見ていても楽しい体験であった。また、今後の海洋教育推進活動の重要性を再認識する場にもなった。ただし、「海のトイレット」を展示する場所が不十分だったこと、紙芝居とプランクトン観察体験を並行してできなかったこと、立会説明の合間に他のブースを見学するなどの時間を十分に確保できなかったこと、手配した椅子の数が不足していたことなど、反省点も多い。今回の経験を基に、2015年度も展示ブースを出展することを計画している。
最後に、ご自分の研究成果発表ポスターの説明よりも子供たちの相手に多くの時間を費やして頂いた升本会員と野中会員、「海のトリビア」全国巡回展資材の展示利用に際しご協力頂いた「船の科学館」に厚く御礼申し上げます。

2015年1月23日 市川洋(サイエンスアゴラ2014担当) 記


サイエンスアゴラ2014について

テーマ:あなたと創るこれからの科学と社会
科学技術の楽しさを伝え、興味関心を喚起するだけにとどまらず、 科学技術をめぐるあらゆる課題、私たちの社会の未来像について、 さまざまな立場の方々が参加し、情報共有、対話を行う場をつく ることを目指しています。

主催:独立行政法人科学技術振興機構 (JST)

会場:東京・お台場地域
> 日本科学未来館、産業技術総合研究所臨海副都心センター、東京都立産業技術研究センター、東京国際交流館、フジテレビ湾岸スタジオ、 シンボルプロムナード公園

ウェブサイト:  http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/

全体プログラム: http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/program/doc/program.pdf(4MB)